特定社会保険労務士 ふるかわ事務所 代表 古川武人

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2020年12月05日(土)

労働契約法旧20条の適否が争点となった10月の最高裁判決は短時間・有期雇用労働法適用に当たる最高裁の警鐘!

令和2年10月13日と15日に正規・非正規の労働条件格差の不合理性が争われた5事件(メトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件、日本郵便(東京・大阪・佐賀)3事件)について、判決が言い渡されました。

それぞれの事件の争点になった基本給、賞与、退職金、諸手当等について各事案の事実関係による労働契約法旧20条の適否が争点となった判決でしたが、私見として最高裁が短時間・有期雇用労働法適用に向けて警鐘を鳴らしたものと受け止めています。

ここでは、メトロコマース事件の退職金と大阪医科薬科大学事件の賞与について検証してみます。

 

メトロコマース事件の退職金の不支給は多数意見により「労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。」とされましたが、「労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」と述べ、さらに林景一裁判長裁判官の補足意見(林道晴裁判官も同意見に同調)の中で退職金には「継続的な勤務等に対する功労報償の性格を有する部分が存することが一般的であることに照らせば、企業等が、労使交渉を経るなどして、有期契約労働者と無期契約労働者との間における職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは、同条やこれを引き継いだ短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の理念に沿うものといえる。現に、同条が適用されるに際して、有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり、有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり、その他にも、有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう。」と述べています。

また、宇賀克也裁判官は原審判断(正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理である。)の破棄について反対意見を述べています。

裁判官5人のうち3人が上記の補足意見及び反対意見を述べたという事実を最高裁の警鐘の1つと捉えています。

 

2つめの大阪医科薬科大学事件の賞与では「労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」と述べ、メトロコマース事件と同様に不合理と認められる場合もあり得ると述べています。

 

メトロコマース事件及び大阪医科薬科大学事件いずれも上記の下線部は、不合理性の判断に当たっては、労働契約法旧20条における重要な判示として認識する必要があります。ここでの「労働条件」を短時間・有期雇用労働法8条の「待遇」に置き換えてみると今回の判示が最高裁として短時間・有期雇用労働法における不合理性の判断に引き継がれるように思われます。

 

いずれの事件でも「(労働条件)の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮」としていますが、労働契約法旧20条と短時間・有期雇用労働法8条の不合理性の判断に係る両条文の法的枠組みには大きな違いがあります。

 

労働契約法旧20条は「総合判断」であり、短時間・有期雇用労働法8条は「個別具体的適切的判断」が必要といえます。

具体的には、労働契約法旧20条が①業務の内容、②当該業務に伴う責任の程度(以上①②を「職務の内容」という。)、③職務の内容及び配置の変更の範囲、④その他の事情の4要素の考慮だけで労働条件全般の不合理性を判断することにしていましたが、短時間・有期雇用労働法8条は「待遇のそれぞれについて」、「待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして」、「4要素のうち適切と認められるものを考慮して」、「不合理と認められる相違を設けてはならない」とされました。

 

また短時間・有期雇用労働法には、法15条1項に基づく2つの指針(このレポートにおいては「労働者派遣法に係る事項」は除きます。)が適用されています。

1つは8条及び9条による判断枠組みの指針である「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(H30厚生労働省告示第430号 平成30年12月28日)」(以下「ガイドライン」という。)であり、もう1つは6条、7条及び10条から14条までに定める雇用管理の改善等に係る指針である「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針(H30厚生労働省告示第429号 平成30年12月28日)」(以下「短時間・有期雇用労働指針」という。)です。

 

さらに、法14条2項による「待遇の相違の内容及び理由並びに第6条から前条(改正後は、8条の不合理な待遇禁止を追加。)までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項」について、説明を求めた短時間・有期雇用労働者に説明ができなければ司法判断として「その他の事情」により不合理と判断される可能性があります(平成30年5月23日第196回国会衆議院厚生労働委員会会議録第22号加藤厚生労働大臣答弁)。

 

なお、法令解釈の詳細については「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(基発0130第1号、職発0130第6号、雇均発0130第1号、開発0130第1号 平成31年1月30日)」(以下「施行通達」という。)をご確認ください。

 

以上から、不合理な待遇差解消の検討手順は次のように考えます。

1.短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との以下の4要素が雇用の終了まで同じか。

①業務の内容

②当該業務に伴う責任の程度

③上記①②の職務内容及び配置の変更の範囲

④その他の事情(9条では慣行等限定的ですが、8条では法的規制、労使協議内容、登用制度導入有無、等級制度内容、評価方法、基本給等の算定方法など広い範囲での検討が必要です。)

 

2.上記「1.」が同じであれば、9条による均等待遇とする必要があり、同じでない場合は以下により8条による均衡待遇を検討し、不合理な待遇があれば待遇差を解消する必要があります。

①通常の労働者に対する基本給、賞与、退職金、諸手当、福利厚生制度、教育訓練などの待遇のそれぞれについて性質及び目的を明確にする。

②上記「1.」の「①②③④」のうち、上記①に照らして適切と認められるものを考慮して待遇差を検証する。

③不合理と認められる待遇差は、その待遇の範囲及び程度を短時間・有期雇用労働者を含めた労使協議により解消を決定する。

 

例えば、賞与の性質が通常の労働者に対する後払いの上乗せ賃金で資格等級ごとに一律支給しており、その目的が通常の労働者の雇用確保と定着にあるのであれば、短時間・有期雇用労働者に支給されないことが不合理とは言えないと考えられます。一方、性質が半期業績結果に応じて支給しており、その目的が労働意欲喚起のためであれば、短時間・有期雇用労働者にも均衡的に支給する必要があると考えられます。

 

不合理な待遇差解消に当たっては、厚生労働省から以下の手順書・マニュアルが公表されていますので、参考にしていただくことができます。

・「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」

https://www.mhlw.go.jp/content/000467476.pdf

・「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界共通編)」

https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/reform/pdf/all.pdf

・「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界別マニュアル)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html

・「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」

https://www.mhlw.go.jp/content/000496880.pdf

 

なお、10月18日の再掲になりますが短時間・有期雇用労働法適用における基本給以外の賞与、退職金、諸手当、福利厚生、教育訓練の待遇差解消のためには次のような対応が考えられます。

①賞与

性質、支給目的は、一般的に一時金として生活費の補填、功労報償、または今後の労働意欲向上に資するためなどが考えられますが、いずれの場合でも雇用形態の違いに係らず、支給額の算定方法は別としても労働時間等に比例して支給する。

 

②退職金

性質、支給目的は、賃金後払い、功労報償や老後生活資金の確保などがありますが、通常の労働者(フルタイム)が一定の勤続年数以上で支給されているのであれば、有期雇用契約の数次の更新により通算雇用期間が通常の労働者の最低受給資格以上に相当する場合は、その算定方法は別としても通算雇用期間に応じて均衡的に支給する。

 

③実費弁償にあたる通勤手当など

支給方法は別としてすべての労働者に支給する。

 

④属人的な手当にあたる家族(扶養)手当、住居手当など

廃止しない限り、当該手当を設けている性質、目的に応じて雇用形態に係わらず支給する。

 

⑤勤務形態や内容の特殊性から基本給に加えて支給される手当にあたる精皆勤手当、危険手当など

廃止のうえ基本給に組込み、または人事評価による賞与に反映する。

 

⑥福利厚生

労働力の確保・定着、安心・安全の醸成、モラール向上、職場の一体感醸成などを期待して行われる雇用条件以外の総合的な施策に当たりますが、雇用形態にかかわらず雇用の事実に基づき、職務の内容等に応じた安全配慮や更衣室・食堂・休憩室などの施設利用は雇用形態にかかわらず、すべての労働者に及ぼす。

 

⑦教育訓練

従事する職務の内容が同じ労働者は雇用形態にかかわらず職務の遂行に必要な能力の付与機会として等しく与える。

 

以上

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