特定社会保険労務士 ふるかわ事務所 代表 古川武人

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新着情報

2021年01月10日(日)

同一労働同一賃金に向けた具体的な取り組みについて

労働契約法旧第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)の適否が争点となった5つの事件(メトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件、日本郵便(東京・大阪・佐賀)3事件)の最高裁判決が昨年10月13日、15日に相次いで出ました。

先のハマキョウレックス事件(2018年6月1日最高裁判決)、長澤運輸事件(同)を含めてすべての最高裁判決が出そろいました。

判決は、あくまでも当該裁判で確定した事実関係等に基づくものですので、どういうケースでも当てはまるものではありませんが、労働契約法旧第20条が移行された短時間・有期雇用労働法の中小企業への適用が本年4月に迫りましたので、最高裁判決を参考に今後の具体的な取り組みについてレポートさせていただきます。

 

1.同一労働同一賃金とは

「同一労働同一賃金」という言葉は、本来は日本も1967年8月に批准したILO100条条約(「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」)の第1条(b)で規定されている「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬(equal remuneration for men and women workers for work of equal value)」のことです。これは、報酬決定原則が仕事基準である欧州の考え方から生まれたもので、性別によっても差別なしに定められる報酬率を言い、賃金における男女の性差別をなくし、同一価値労働では時間単位賃金を同じにするためのものです。

また、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)のターゲット8. 5では「2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。(By 2030, achieve full and productive employment and decent work for all women and men, including for young people and persons with disabilities, and equal pay for work of equal value)」とされています。

こちらでは「work of equal value」の日本語訳は「同一労働」とされています。

ILO100条条約第1条(b)の「work of equal value」と同じですが、こちらの日本語訳は「同一価値の労働」とされています。

高度経済成長期に至るまでの当時の日本政府では、同一労働同一賃金による職務給を唱道していたようで、このような時代背景から条約が批准されたようですが、石油ショックやその後の高度経済成長の終了に伴い、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者をいう。)との待遇格差の是正が大きなターゲットとなったため、「work of equal value」を日本独自の「同一労働」と訳すことになったのではないかと思われます。

このように「同一労働同一賃金」は、日本独自の課題である正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇格差是正のために使われる言葉になりましたが、2030年までには欧米と同じ「同一価値労働同一賃金」に向けた動きが出てくると思われ、現在はその過渡期にあります。

 

2.最高裁判決から見る短時間・有期雇用労働法適用時の留意点

ここでは、メトロコマース事件の退職金と大阪医科薬科大学事件の賞与について検証してみます。

メトロコマース事件の退職金の不支給は多数意見により「労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。」とされましたが、「労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」と述べ、さらに林景一裁判長裁判官の補足意見(林道晴裁判官も同意見に同調)の中で退職金には「継続的な勤務等に対する功労報償の性格を有する部分が存することが一般的であることに照らせば、企業等が、労使交渉を経るなどして、有期契約労働者と無期契約労働者との間における職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは、同条やこれを引き継いだ短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の理念に沿うものといえる。現に、同条が適用されるに際して、有期契約労働者に対し退職金に相当する企業型確定拠出年金を導入したり、有期契約労働者が自ら掛け金を拠出する個人型確定拠出年金への加入に協力したりする企業等も出始めていることがうかがわれるところであり、その他にも、有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられよう。」と述べています。

また、宇賀克也裁判官は原審判断(正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理である。)の破棄について反対意見を述べています。

裁判官5人のうち3人が上記の補足意見及び反対意見を述べたという事実は注目する必要があります。

 

大阪医科薬科大学事件の賞与では「労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」と述べ、メトロコマース事件と同様に不合理と認められる場合もあり得ると述べています。

 

また、メトロコマース事件及び大阪医科薬科大学事件いずれも後段の下線部では、不合理性の判断に当たっては、労働契約法旧20条における重要な判示として認識する必要があります。ここでの「労働条件」を短時間・有期雇用労働法8条の「待遇」に置き換えてみると今回の判示が最高裁として短時間・有期雇用労働法における不合理性の判断に引き継がれると考えます。

 

いずれの事件でも「(労働条件)の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮」としていますが、労働契約法旧20条と短時間・有期雇用労働法8条の不合理性の判断に係る両条文の法的枠組みには3つの大きな違いがあります。

 

1つめは、不合理性の判断について労働契約法旧20条は「総合判断」であり、短時間・有期雇用労働法8条は「個別具体的適切的判断」が必要といえます。

具体的には、労働契約法旧20条が①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以上を「職務の内容」という。以下同じ。)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情の3要素を考慮して労働条件全般の不合理性を判断することにしていましたが、短時間・有期雇用労働法8条は「(基本給、賞与その他の)待遇のそれぞれについて」、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして」、「3要素のうち適切と認められるものを考慮して」、「不合理と認められる相違を設けてはならない」とされました。

 

2つめは、短時間・有期雇用労働法には法15条1項に基づく2つの指針(このレポートにおいては「労働者派遣法に係る事項」は除きます。)が適用されています。

1つは8条及び9条による判断枠組みの指針である「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(H30厚生労働省告示第430号 平成30年12月28日)」(以下「ガイドライン」という。)であり、もう1つは6条、7条及び10条から14条までに定める雇用管理の改善等に係る指針である「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針(H30厚生労働省告示第429号 平成30年12月28日)」(以下「短時間・有期雇用労働指針」という。)です。

 

3つめは、法14条2項による「待遇の相違の内容及び理由並びに第6条から前条(改正後は、8条の不合理な待遇禁止を追加。)までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項」について、説明を求めた短時間・有期雇用労働者に説明ができなければ司法判断として「その他の事情」により不合理と判断される可能性があります(平成30年5月23日第196回国会衆議院厚生労働委員会会議録第22号加藤厚生労働大臣答弁)。

 

これまでの高裁や最高裁の判決の傾向から基本給、賞与、退職金は3要素を幅広い観点から細かく検討していますが、諸手当等については「待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして」考慮しているだけのように思われます。

 

なお、短時間・有期雇用労働法全般の法令解釈の詳細については「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(基発0130第1号、職発0130第6号、雇均発0130第1号、開発0130第1号 平成31年1月30日)」(以下「施行通達」という。)が発出されていますのでご確認ください。

 

3.不合理な待遇差解消の検討手順

◆ 第1段階

短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との以下の3要素が雇用の終了まで同じか。

① 業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度

② 当該職務の内容及び配置の変更の範囲

③ その他の事情(9条では慣行等限定的ですが、8条では法的規制、労使協議内容、登用制度導入有無、等級制度内容、評価方法、基本給等の算定方法など広い範囲での検討が必要です。)

 

上記「第1段階」が同じであれば、9条による均等待遇とする必要があり、同じでない場合は以下により8条による均衡待遇を検討し、不合理な待遇があれば待遇差を解消する必要があります。

① 通常の労働者に対する基本給、賞与、退職金、諸手当、福利厚生制度、教育訓練などの待遇のそれぞれについて性質及び目的を明確にする。

② 上記「第1段階」の「①②③」のうち、上記①に照らして適切と認められるものを考慮して待遇差を検証する。

③ 不合理と認められる待遇差は、その待遇の範囲及び程度を短時間・有期雇用労働者を含めた労使協議により解消を図る。

 

例えば、賞与の性質が通常の労働者に対する後払いの上乗せ賃金で資格等級ごとに一律支給しており、その目的が通常の労働者の雇用確保と定着にあるのであれば、短時間・有期雇用労働者に支給されないことが不合理とは言えないと考えられます。一方、性質が半期業績結果に応じて支給しており、その目的が労働意欲喚起のためであれば、短時間・有期雇用労働者にも均衡的に支給する必要があると考えられます。

 

不合理な待遇差解消に当たっては、厚生労働省から以下の手順書・マニュアルが公表されていますので、参考にしていただくことができます。

・「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」

https://www.mhlw.go.jp/content/000467476.pdf

 

・「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界共通編)」

https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/reform/pdf/all.pdf

 

・「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界別マニュアル)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html

 

・「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」

https://www.mhlw.go.jp/content/000496880.pdf

 

4.賞与、退職金、諸手当、福利厚生、教育訓練の不合理な待遇差解消のための検討例

基本給については、各企業の実態に応じたテクニカルな対応が必要になりますが、一つの方法として新着情報(2020年10月18日「同一(価値)労働同一賃金における基本給の考察」)をご確認ください。

https://furukawaoffice.jp/news/

 

厚生労働省から公表されているマニュアルのうち、「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」の要素別点数法を用いた職務(役割)評価による均等・均衡待遇の実現は、「同一価値労働同一賃金」の観点から優れた方法といえますが、従業員個人ごとの比較も必要な手間のかかる手法であり、従業員規模が100名単位以下で、業務内容の種類・範囲に定型業務の割合が多い職場などで利用いただくことを個人的にはお勧めします。

短時間・有期雇用労働法で求める日本独自の「同一労働同一賃金」による均等・均衡待遇を実現するために検討いただく優先順位は、上記「3.」による検討手順により、まずは③~⑦、次いで①そして②を順次検討いただいてはいかがでしょうか。

 

① 賞与

性質、支給目的は、一般的に一時金として生活費の補填、功労報償、または今後の労働意欲向上に資するためなどが考えられますが、いずれの場合でも雇用形態の違いに係らず、労働時間等に比例して支給額の算定方法を検討する。

 

② 退職金

性質、支給目的は、賃金後払い、功労報償や老後生活資金の確保などがありますが、通常の労働者(フルタイム)が一定の勤続年数以上で支給されているのであれば、有期雇用契約の数次の更新により通算雇用期間が通常の労働者の最低受給資格以上に相当する場合は、通算雇用期間に応じて均衡的な算定方法を検討する。

 

③ 実費弁償にあたる通勤手当など

すべての労働者に支給する方法を検討する。

 

④ 属人的な手当にあたる家族(扶養)手当、住居手当など

廃止により基本給等に組み替え又は当該手当を設けている性質、目的に応じて雇用形態に係わらず支給を検討する。

 

⑤ 勤務形態や内容の特殊性から基本給に加えて支給される手当にあたる精皆勤手当、危険手当など

当該手当を設けている性質、目的に応じて雇用形態に係わらず支給を検討する。

 

⑥ 福利厚生

労働力の確保・定着、安心・安全の醸成、モラール向上、職場の一体感醸成などを期待して行われる雇用条件以外の総合的な施策に当たりますが、雇用形態にかかわらず雇用の事実に基づき、職務の内容等に応じた安全配慮や更衣室・食堂・休憩室などの施設利用は雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用、利用できるように検討する。

 

⑦ 教育訓練

従事する職務の内容が同じ労働者は雇用形態にかかわらず職務の遂行に必要な能力の付与機会として等しく与えることができるように検討する。

 

5.まとめ

「働き方改革」の名のもとに先に改正施行された労働基準法に続き、コロナ禍のなか本年4月に適用される短時間・有期雇用労働法、そして同時期に改正施行される高年齢者雇用安定法の対応のため中小企業は大きな変革を求められています。

しかし、本年4月にすべて対応できている必要はありません。法令上の努力義務であっても何もしないことは望ましくありませんが、優先順位をつけて、行政機関や専門家の知恵も借りながら、労使協議を積み重ねて1歩ずつクリアしていくことが重要です。

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