特定社会保険労務士 ふるかわ事務所 代表 古川武人

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新着情報

2021年06月19日(土)

改正高年齢者雇用安定法の概要

2021年4月1日改正施行された高年齢者雇用安定法は、70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずるべき措置として高年齢者就業確保措置を規定しました。

この高年齢者就業確保措置は、努力義務として「雇用による措置」と「雇用以外の措置(創業支援等措置)」の2つの措置が設けられています。

以下の厚生労働省ホームページの「高年齢者雇用対策」の中でも詳細なパンフレットやQ&Aが掲載されていますので参照ください。

URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/index.html

 

1.改正高年齢者雇用安定法の建て付け

改正高年齢者雇用安定法は、雇用確保措置と就業確保措置の2本柱からなり、さらに就業確保措置には雇用によらない創業支援等措置が設けられています。

 

ア.雇用確保措置:義務(対象事業主は、当該労働者を60歳まで雇用していた事業主)

◎65歳までの雇用確保措置(以下の①~③のいずれかの措置)

①65歳までの定年の引き上げ

②定年制の廃止

③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度又は勤務延長制度)を導入(特殊関係事業主によるものを含む。)

継続雇用制度の対象者は原則として「希望者全員」

※経過措置の適用

平成25年4月1日までに労使協定により制度適用対象者の基準を定めていた場合は、その基準を適用できる年齢を令和7年3月31日までに段階的に引き上げる必要がある。

雇用確保措置の実施に係わるハローワークの指導を繰り返し受けたにもかかわらず何ら具体的な取り組みを行わない企業には、勧告書の発出、さらに勧告に従わない場合は企業名の公表を行う場合がある。

 

イ.就業確保措置:努力義務(対象事業主は、当該労働者を60歳まで雇用していた事業主)

◎雇用確保措置+65歳から70歳までの就業確保措置

◎就業確保措置は、以下の雇用による措置または雇用によらない措置のいずれか、または併用して講じることかが可能

◎雇用による措置(以下の①~③のいずれかの措置)

①70歳までの定年の引き上げ

②定年制の廃止

③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度又は勤務延長制度)を導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む。)

継続雇用制度の対象者は「希望者全員」または対象となる高年齢者に係る基準(以下「対象者基準」という。)を定めることも可能

「対象者基準」とは(「高年齢者就業確保措置Q&A」⑬)

対象者を限定する基準の策定に当たっては、過半数労働組合等と事業主との間で十分に協議の上、各企業の実情に応じて定められることを想定しており、その内容については、原則として労使に委ねられるものです。

ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に特定の高年齢者を措置の対象から除外しようとするなど高年齢者雇用安定法の趣旨や、他の労働関連法令に反する又は公序良俗に反するものは認められません。

【適切ではないと考えられる例】

『会社が必要と認めた者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)

『上司の推薦がある者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)

『男性(女性)に限る』(男女差別に該当)

『組合活動に従事していない者』(不当労働行為に該当)

なお、対象者を限定する基準については、以下の点に留意して策定されたものが望ましいと考えられます。

ア 意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること(具体性

労働者自ら基準に適合するか否かを一定程度予見することができ、到達していない労働者に対して能力開発等を促すことができるような具体性を有するものであること。

イ 必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができるものであること(客観性

企業や上司等の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見可能で、該当の有無について紛争を招くことのないよう配慮されたものであること。

 

特殊関係事業主以外の他の事業主で継続雇用される場合は、無期転換申込権が発生します。

 

◎雇用によらない措置(創業支援等措置)

①70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

②70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度(いわゆる有償ボランティア制度)の導入

・事業主が自ら実施する社会貢献事業

・事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

⚠雇用によらない措置であるため労働者性がある場合は、雇用による措置として労働基準法9条が適用されます。

【労働者性の判断基準:労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)】

以下「1」及び「2」を総合的に勘案することで、個別具体的に判断する。

1 使用従属性

(1)指揮監督下の労働者であるかどうか

イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

ロ 業務遂行上の指揮監督の有無

ハ 拘束性の有無

ニ 代替性の有無

(2)報酬の労務対償性

2 労働者性の判断を補強する要素があるかどうか

(1) 事業者性の有無

イ 機械、器具の負担関係

ロ 報酬の額

(2)専属性の程度

(3)その他

 

 

2.雇用によらない措置である創業支援等措置とは

 

ア.社会貢献事業とは

不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のことで、事業の性質や内容等を勘案して個別に判断されますが、以下のような事業は該当しません。

・特定の宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を強化育成することを目的とする事業

・特定の公職の候補者や公職にある者、政党を推薦・指示・反対することを目的とする事業

 

イ.創業支援等措置を実施する場合の手順

①計画を作成する

②過半数労働組合等の同意を得る

③計画を周知する

④高年齢者との業務委託契約又は高年齢者の就業先となる団体(特殊関係事業主又は他社で継続雇用する場合を含む)との契約の締結

 

ウ.計画記載事項

以下の事項を記載した計画を作成します。

(1)高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由

(2)高年齢者が従事する業務の内容に関する事項

(3)高年齢者に支払う金銭に関する事項

(4)契約を締結する頻度に関する事項

(5)契約に係る納品に関する事項

(6)契約の変更に関する事項

(7)契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)

(8)諸経費の取り扱いに関する事項

(9)安全および衛生に関する事項

(10)災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項

(11)社会貢献事業を実施する団体に関する事項

(12)上記(1)~(11)のほか、創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される事項

 

エ. 過半数労働組合等との同意内容

上記の計画を過半数労働組合等の同意を得る必要があります。

※過半数労働組合等とは

労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、そして労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者を指します。

<過半数を代表する者を選出する際の留意事項>

・労働基準法第41条第2号に規定する監督または管理の地位にある者でないこと

・創業支援等措置の計画に関する同意を行うことを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きで選出された者であって、事業主の意向に基づき選出された者でないこと

※同意とは

過半数組合等に対して、

・労働基準法等の労働関係法令が適用されない働き方であること

・そのために上記の計画を定めること

・創業支援等措置を選択する理由

を十分に説明することが求められます。

なお、創業支援等措置と就業確保措置うち雇用による措置の両方を講じる場合は、雇用による措置により努力義務を達成したことになるため、創業支援等措置に関して過半数労働組合等との同意を必ずしも得る必要はありませんが、高年齢者雇用安定法の趣旨を考えると、両方の措置を講ずる場合も同意を得ることが望ましい。

 

オ. 計画を周知する方法

上記で同意を得た計画を、次のいずれかの方法により労働者に周知する必要があります。

・常時当該事業所の見やすい場所に掲示するか、または備え付ける

・書面を労働者に交付する

・磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、当該事業所に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する(例:電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにするなど)

 

カ. 個々の高年齢者と業務委託契約等を締結する場合の留意事項

(1)契約は書面により締結すること

書面には計画に記載した事項に基づいて決定した、個々の高年齢者の就業条件を記載すること

(2)契約を締結する高年齢者に計画を記載した書面を交付すること

(3)以下の3点を十分に説明すること

・労働基準法等の労働関係法令が適用されない働き方であること

・そのために計画を定めること

・創業支援等措置を選択する理由

 

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