特定社会保険労務士 ふるかわ事務所 代表 古川武人

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新着情報

2019年08月21日(水)

労働者派遣事業の労使協定方式がもたらすモデル賃金から職種別賃金への流れ

厚生労働省職業安定局長は、去る7月8日に「令和2年度の『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等 に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める[同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額]』等について」(職発0708第2号)を通達しました。

詳細は、以下のURLをご確認ください。

https://www.mhlw.go.jp/content/000526710.pdf

 

これは、働き方改革の二本柱の一つである、いわゆる「同一労働同一賃金」のうち、派遣労働者の待遇決定方式の一つである「労使協定による待遇の確保」(以下「労使協定方式」という。)の「賃金の決定方法」について、満たすべき要件とされている「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金(以下「一般賃金」という。)の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること」と「派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に改善されるものであること」の具体的な基準を示したものです。

 

一般賃金は、「基本給・賞与・手当等」、「通勤手当」、「退職金」ごとに区分して取扱いを示していますが、一般賃金が同種の業務、同程度の能力および経験並びに同一の派遣就業場所における無期雇用かつフルタイムの労働者の賃金であるため、労使協定方式の対象となる派遣労働者の基本給・賞与・手当等(以下「一般基本給・賞与等」という。)は、以下の算式で算出します。

 

①職種別基準値×②能力・経験調整指数×③地域指数

 

この通達の別添には膨大な表が添付されていますが、①職種別基準値は平成30年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金と職業安定業務統計の求人賃金によるデータがあります。いずれも職業分類表の小分類レベル(職種)の詳細な賃金(時給換算)が掲載されています。

従来の賃金水準は、モデル賃金として学歴・年齢・勤続条件で、業種別・規模別あるいは同業他社比較によるものが一般的でした。今回の職種別の賃金は学歴・年齢・勤続、業種別・規模別ではなく、従事する職種により賃金が決定されるという日本の労務管理施策において画期的な出来事になります。

 

今回のような職種別賃金が法制化されることにより、派遣労働者に限らず、今後の短時間・有期雇用労働者の賃金形成にも影響を及ぼすと思われます。

 

また、②能力・経験調整指数は、能力・経験の代理指標として、賃金構造基本統計調査の特別集計により算出した勤続年数別の所定内給与(産業計)に賞与を加味した額により算出した指数であるため、現行の正社員の年功賃金カーブがそのまま反映されています。具体的には以下のとおりです。

 

勤続0年 勤続1年 勤続2年 勤続3年 勤続5年 勤続10年 勤続20年
100 116.0 126.9 131.9 138.8 163.5 204.0

 

職種別基準値はいくつかの調整をしていますが、能力・経験調整指数を乗じた額は年功的な賃金水準になります。しかし、労働者派遣は臨時的かつ一時的なものであるため、指数のように長期にわたる派遣はないと思われ、かえって短時間・有期労働者の賃金水準に大きな影響を及ぼすように思われます。

 

なお、上記の一般基本給・賞与等の算式では、地域指数を使用しています。これは、派遣就業場所の地域の物価等を反映するため、職業安定業務統計の求人平均賃金をもとに、都道府県及び公共職業安定所の管轄地域別に、全国計を100として職業大分類の構成比の違いを除去して算出した指数です。

 

最低賃金法による地域別最低賃金は都道府県別に設定されていますが、一般基本給・賞与等の地域指数はハローワーク別に設定されています。例えば、都道府県別地域指数の全国平均が100で東京は114.1ですが、同じ東京でも飯田橋管内は116.4で府中管内は107.4と賃金水準格差がハローワーク別に指数で明示されました。一般基本給・賞与等の算定額が地域別最低賃金の額を下回る場合には、地域別最低賃金の額を「基準値(0年)」の額とした上で、当該額に能力・経験調整指数を乗じることにより、一般基本給・ 賞与等の額を算出することになります。

 

こうなると最低賃金と職種別基準値に地域指数を乗じた一般基本給・賞与等の算定額との比較調整が必要になり、最低賃金の都道府県別設定単位を含めた最低賃金の在り方の議論が出てくるように思います。

 

このように、今回の通達は非常にインパクトのあるものですが、先に述べたとおり、特に今後の短時間・有期雇用労働者並びに高年齢者雇用の賃金形成が均等・均衡待遇の要請のもとに職種別賃金を取り入れた方向に進む可能性があります。

来年の施行(中小企業は2021年4月施行)までに、改めて現状の検討状況を吟味する必要がありそうです。

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