特定社会保険労務士 ふるかわ事務所 代表 古川武人

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2020年10月18日(日)

同一(価値)労働同一賃金における基本給の考察

労働契約法旧第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)の適否が争点となった5つの事件の最高裁の判決が10月13日、15日に相次いで出ました。

1 3日(2判決)は、有期雇用労働者に対する退職金、賞与、私傷病欠勤中の賃金の不支給について、いずれも労働契約法旧第20条(短時間・有期雇用労働法第8条に移行)にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当であるとされました。

1 5日(3判決)は、郵便業務を担当する有期雇用労働者に対する年末年始勤務手当、祝日割増賃金、扶養手当の不支給及び私傷病休暇の無給休暇、夏期冬期休暇の未付与は、いずれも労働契約法旧第20条(現短時間・有期雇用労働法第8条に移行)にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当であるとされました。

なお、夏期冬期休暇は原告の請求を認めた原審を是認しました。

判決は、あくまでも当該裁判で確定した事実関係等に基づくものですので、どういうケースでも当てはまるものではありません。

今回の判決の一つの日本郵便(佐賀)事件(最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載)で、夏期冬期休暇をめぐって「有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に老慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁)ところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」という判例が示されました。

これは、諸手当については短時間・有期雇用労働法第8条の3要素である①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情のうち、「その他の事情」の中で賃金項目の趣旨を個別に老慮するのと同様に個々の労働条件の趣旨についても個別に考慮することになると思われます。

退職金については、メトロコマース事件(最高裁令和元年(受)第1190号、第1191号令和2年10月13日第三小法廷判決・公刊物未登載)の林景一裁判長裁判官の補足意見で「退職金は、その支給の有無や支給方法等につき、労使交渉等を踏まえて、賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例であると考えられるところ、(中略)、これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は、比較的大きいものと解されよう。」と述べるとともに「退職金には、継続的な勤務等に対する功労報償の性格を有する部分が存することが一般的であることに照らせば、企業等が、労使交渉を経るなどして、有期契約労働者と無期契約労働者との間における職務の内容等の相違の程度に応じて均衡のとれた処遇を図っていくことは、同条やこれを引き継いだ短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条の理念に沿うものといえる。」と述べ、労使交渉の重要性から使用者の裁量権を尊重するものの労働者を代表する労働組合等の関わりついても警鐘を鳴らしたものと言えます。

しかし、同事件の判決理由の一つに「第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。」とし、「正社員人材確保論」という目的を採用しました。

今回の判決に係る賞与、退職金、諸手当や福利厚生、教育訓練に関しては、最後に「その他」として整理しました。

 

標題の「同一(価値)労働同一賃金における基本給の考察」にある基本給については、裁判による争いの例は少ないですが、短時間・有期雇用労働法の改正施行により同法14条の事業主が講する措置の内容等の説明義務を含めて今後争いに発展することがないように留意いただきたいことを考察しました。

まず、いくつかの前提となる用語を整理したいと思います。

 

1.同一価値労働同一賃金と同一労働同一賃金

同一価値労働同一賃金は、日本も1967年8月に批准したILO100条条約(「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」)の第1条(b)で規定されている「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬(equal remuneration for men and women workers for work of equal value)」のことで、性別による差別なしに定められる報酬率を言います。

また、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)のターゲット8. 5では「2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。(By 2030, achieve full and productive employment and decent work for all women and men, including for young people and persons with disabilities, and equal pay for work of equal value)」とされています。こちらでは「work of equal value」の日本語訳は「同一労働」とされています。

ILO100条条約第1条(b)の「work of equal value」と同じでも、こちらの日本語訳は「同一価値の労働」とされています。もともとは、賃金における男女の性差別をなくし、同一価値労働では時間単位賃金を同じにするためのものですが、日本では条約批准後に正規雇用労働者と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者をいう。)との待遇格差の是正をターゲットにしたため関係者への影響も考慮して「同一労働」と訳すことになったのではないかと思います。

なお、報酬(remuneration)と賃金(pay)の違いは、「pay」が広い意味で賃金を示す一般的な表現で、「remuneration」が「pay」に対する形式的な表現とされています。

このように「同一労働同一賃金」は、日本独自の課題である正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇格差是正のために使われる言葉になりましたが、欧米が「同一価値労働同一賃金」としているのとは対照的です。

これは、日本の雇用形態が新卒一括採用によるメンバーシップ型終身雇用である一方、欧米はJOB型雇用という違いがあることにも影響していると考えられます。

また日本では定年制度があることから解雇規制が厳格(解雇権乱用法理)で、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とされます。

このため、企業は正社員の採用を抑えて時間外労働の調整によって解雇を回避しているといわれます。さすがに残業規制があるため好景気時には正社員だけでは人手が足りないため、非正規雇用労働者といわれる人たちに補完的な業務を担ってもらう必要から臨時的に雇用していましたが、景気の好不況にかかわらず、さらには価格競争上の必要などから低賃金での雇用に至ったと考えられます。

現在は、担う業務が補完的な業務に留まらず、基幹的な業務を担う人たちもおり、さらには契約期間を数次に亘って更新することよって、もはや臨時的な雇用とはいえず、メンバーシップの一員と見徹される人たちが多く存在するのか現状です。

こうした中で、非正規雇用労働者の拡大と正規雇用労働者との待遇格差拡大から「短時間・有期雇用労働法」により、我が国が目指す「同一労働同一賃金」の実現に向けて「均衡待遇」、「均等待遇」をはじめとする雇用管理の改善等に関する措置等が整備されました。

 

2.賃金体系と評価

賃金体系とは、賃金の決定方法を自社の実情と将来的な展望に立ち、どのような項目・要素で構成し、どのような評価をして、どのような算定をして支払うかを明らかにしたものです。

ア.賃金の決定

賃金の決定には、長期的視点と短期的視点の2つがあります。

長期的視点とは月給(基本給、諸手当)としてもらう基本賃金部分、短期的視点とは賞与としてもらう成果・業績賃金部分です。

また賃金の決定には次の3つの原則があります。

(1)労働対価の原則

労働を提供した対価であること。「労働の対価」をどのように把握し、どのように金額を決めるかによって、どのような賃金体系になるかが決まります。

「労働の対価」の把握は、 ①就業規則、労働契約による仕事(仕事の出来栄え、能率などは考慮しない労働基準法第11条による労働の対償)として把握、 ②業務成果による把握の2つが考えられます。

上記②の業務成果による把握は、「成果」が会社に対する貢献であることから、その価値には以下の要素が考えられます。

以下の(オ)の「結果価値」の他、どの要素を価値として評価するかによって賃金の決定方法が異なることになります。また、どの要素を長期的視点である基本賃金部分とするか、短期的視点である成果・業績賃金部分とするかによっても賃金の決定方法が異なります。

以下(ア)から(エ)は、最終的な成果を期待する要素として「期待価値」といいます。

(ア)仕事をこなすことができる能力レベル

(イ)能力を限定なく仕事に投入できるレベル

(ウ)仕事の重要度

(エ)仕事の困難度

(オ)上記「ア」~「エ」の期待価値の結果としての成果の大きさ

(2)生活保障の原則

賃金は生活の必要性を満たすものであること。

(3)労働力の市場価格

市場の需給関係による世間相場を意識した賃金であること。

 

イ.月給としてもらう基本賃金部分

基本賃金部分の設計には2つの考慮すべき点があります。

(1)内部公平性

新卒一括採用をベースとした同じ会社の労働者(メンバーが変わらない同質性が高いクローズドなコミュニティー)の中で賃金の違いを納得のいく形、ルールで決めること。

内部公平性は、仕事に対して払う(「仕事基準賃金」)、人に対して払う(「人(能力)基準賃金」)、という2つの考え方があります。

「仕事基準賃金」は、仕事と賃金が相対の契約関係にあります。仕事には、職種と職務の2つがありますが、現在は職種を分割または分業化した「職務」で賃金を決める職務給が一般的です。

仕事に値段をつけるためコスト対応力が高いというメリットがありますが、技術革新などによる環境変化に対して柔軟な対応ができないというデメリットもあります。

「人(能力)基準賃金」では、それぞれの人の職務遂行能力や発揮能力などを評価して賃金を決定します。能力には「潜在能力」と「顕在能力」、そして「保有能力」と「発揮能力」があります。

「潜在能力」は、まだ表に出てこない能力で自己啓発などによりスキルアップした能力も含みます。

「顕在能力」は、行動特性や行動事実などによって保有が評価された能力です。

「保有能力」は、本人が持つ「潜在能力」と「顕在能力」を含めた総体的な能力です。

「発揮能力」は、「保有能力」により一定の評価期間内に求められた成果を生みだした能力です。

その会社に入った経験年数や年齢をベースにして賃金を決めていく、いわゆる年功賃金は、「保有能力」の評価が経験年数や年齢に偏った場合に現れ、能力と実績が乖離している場合は、コストパフォーマンスが問題になります。

人事管理上は「職能資格」として、毎年能力の発揮度を評価して該当資格に格付けるものの、運用しているうちに年功的になる傾向があります。

また、「発揮能力」の評価が実績に偏った場合には短期的な成果に注力した成果主義賃金となり、長期的な課題に取り組まない問題が発生します。

これらを是正するために導入された「目標管理制度」は、職務遂行目標、業務改善目標、業績目標や能力開発目標などの複数の目標を労働者が組織目標を踏まえて主体的に設定し、上司が面談により承認し、その後達成に向けたサポート(援助、評価、フィードバック、育成)をしていくマネジメント手法です。

年功的な部分と成果主義的な部分とのウェイトのかけ方は会社の歴史、風土、ミッションや外部労働市場との関係などから一様ではなく、賃金の決定にも多様な視点からの設計が必要です。

(2)外部競争性

新卒、中途採用、外国人など多様性のある労働者(メンバーの出入りがあるオープンなコミュニティー)の中で賃金に外部労働市場における競争原理(相場形成機能)を導入すること。

基本賃金部分の外部競争性は、求める職種と職務を担う人材に対して市場価格で優位性のある賃金の適用と「複線型人事制度(同一企業内に複数のキャリアコースが並立し、複数の選択肢の中から労働者自らがキャリアを選べる多元的な人事管理システム)」など働き方にも多様なコース選択ができる働きやすい環境を整備することによって、必要な人材が確保できることになります。

 

3.「同一労働同一賃金」の要件を満たす基本給の考え方

基本給が「同一労働同一賃金」の要件を満たすためには、基本給体系の定義づけと雇用する労働者の雇用形態、労働条件、職種、職務内容等に応じた基本給体系を客観的、合理的な基準で適用する必要があります。

私は、基本給のベースを「生活給(年齢など)十仕事給(職能、職務、役割など)」で構成しました。

ア.生活給の目的

生活給は、いわゆる労働の再生産コスト(労働力を維持するために必要な最低限のコスト)として労働者(労働者を含む世帯)の最低生活(世帯生計費)を保障し、労働者を含む世帯の生活を恒常的に確保することによりその労働環境を整え、終身・無限定雇用などの労働条件を前提に企業業績への長期的、かつ高度な貢献を期待したプレミアムとして支給します。

プレミアムは、終身・無限定雇用などの労働条件や企業業績への長期的に高度な貢献が期待できる人材として、全国または一定の地域(地域限定雇用の場合)から採用に応募した者を数次の選抜を経て採用した者に適用されるものとします。

 

イ.仕事給の目的

仕事給は、労働力(労働者の労働能力の要素の総和)による実現価値(企業業績への貢献価値)を一定の基準により評価し、当該評価結果に基づき一定の条件で支給するものです。

仕事給の種類と支給条件は、以下のとおりです。

①職能給

職務遂行能力(継続的な遂行能力)の発揮と向上

②職務給

職務ごとに定義された職務内容(仕事ですべきこと)の遂行

「職務ごとに定義された職務内容」は、厳密にはジョブディスクリプション(職務記述書)として、担当する業務内容や範囲、難易度、必要なスキルなどをまとめた書類を求められるが、私は業務内容がマニュアル化されていれば当該マニュアルに記述された職務内容が仕事ですべきこととして評価できると考えます。

③役割給

ミッション(仕事で成し遂げるべきこと)の達成

 

ウ.雇用形態、労働条件、職種、職務内容等による基本給の適用例

(1)無期雇用、無限定雇用、経営層及び管理職候補(いわゆる総合職)

無限定雇用には業務の必要に応じた即応性(急な残業・休日出勤、出張、居住地以外への異動や他社への出向などの要請への対応)も求められる。

・ジュニアクラス(一般職能):生活給+職能給

・シニアクラス(中間指導職能):生活給+職能給+役割給(ジュニアクラスの生活給の全部又は一部を職能給または役割給に振替)

・マネジャークラス(複線型人事制度適用):基本給・諸手当を廃した年俸制

(例:基本年俸+業績年俸)

マネジャークラスは、「複線型人事制度」により一定の基準により管理職能または専門職能(高度な専門能力を必要とする職務を遂行する職種)、専任職能(社内外での豊富な経験を有し、特定の業務に精通している職種)のいずれかに処遇する。

(2)無期雇用、勤務地限定・フルタイム雇用、基幹・定型業務、複線型人事制度適用(いわゆる一般職)

・ジュニアクラス(一般職能):生活給+職能給

・シニアクラス(中間指導職能):生活給+職能給+役割給(ジュニアクラスの生活給の全部又は一部を職能給または役割給に振替)

・マネジャークラス(複線型人事制度適用):基本給・諸手当を廃した年俸制

(例:基本年俸+業績年俸)

(3)無期雇用、勤務地・日数・時間限定雇用、定型・補助業務(無期転換者)

職務給十職能給

(4)有期雇用、勤務地・日数・時間限定雇用、定型・補助業務(嘱託・契約社員・パートタイマー、アルバイトなど呼称にかかわらず有期雇用労働者)

職務給十職能給

初格付賃金は最低賃金と募集職務内容による限定労働条件(勤務地・日数・時間限定雇用)による市場賃金をベースに経験年数と期待する職務遂行能力で格付けする。

上記(1)(2)の通常の労働者と(3)(4)の短時間・有期雇用労働者の賃金が短時間・有期雇用労働法8条の3要素により不合理ではないといえるためには、時間給換算額で均衡が取れていることが必要だと考えられます。

なお、派遣労働者の労使協定方式(労働者派遣法第30条の4)「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」に相当する水準とすることもできます。

定年後再雇用者についても上記と同様にしますが、職務内容・範囲によっては、上記(1)または(2)を適用する場合もあります。

 

なお、一定の経験年数や能力の発揮程度によって、上記(2)以上の雇用形態に登用する制度の導入は、雇用形態にかかわらず均等な機会を提供するために重要な施策です。

 

4.その他

賞与、退職金、諸手当は、それぞれの性質や支給する目的を明確にして支給範囲、支給額などを考慮する必要があり、使用者の裁量が大きいとはいえ雇用形態の違いにより賞与、退職金と諸手当の性質や支給する目的が不合理にならないよう手当てする必要があります。

また、福利厚生、教育訓練は、雇用の事実や職務の内容に応じて雇用形態にかかわらず均衡のとれた機会を与える必要があります。

賞与の性質、支給目的は、一時金として生活費の補填、功労報償、または今後の労働意欲向上に資するためなどが考えられますが、いずれの場合でも雇用形態の違いに係らず、支給額の算定方法は別としても労働時間等に比例して支給する必要があると思います。

退職金もその性質、支給目的は、賃金後払い、功労報償や老後生活資金の確保などがありますが、通常の労働者(フルタイム)が一定の勤続年数以上で支給されているのであれば、有期雇用契約の数次の更新により通算雇用期間が通常の労働者の最低受給資格以上に相当する場合は、その算定方法は別としても通算雇用期間に応じた均衡な支給を検討する必要があると思います。

実費弁償にあたる通勤手当は、支給方法は別としてすべての労働者に支給する必要があります。

家族(扶養)、住居などの属人的な手当は、廃止しない限り、当該手当を設けている性質、目的に応じて雇用形態に係わらず支給することになります。

精皆勤手当、危険手当など勤務形態や内容の特殊性から基本給に加えて支給される手当は廃止のうえ基本給に組込み、または人事評価による賞与に反映するなどが考えられます。

福利厚生は、労働力の確保・定着、安心・安全の醸成、モラール向上、職場の一体感醸成などを期待して行われる雇用条件以外の総合的な施策に当たりますが、雇用形態にかかわらず雇用の事実に基づき、職務の内容等に応じた安全配慮や更衣室・食堂・休憩室などの施設利用は雇用形態にかかわらず、すべての労働者に及ぼす必要があります。

教育訓練は、従事する職務の内容が同じ労働者は雇用形態にかかわらず職務の遂行に必要な能力の付与機会は等しく与える必要があります。

 

5.まとめ

労働契約法旧第20条の適否が争点となった事件の最高裁の判決が出そろいましたが、今後は短時間・有期雇用労働法による裁判所の判断が求められることになります。

10月15日に新たに示された判例(「有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁)ところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」)から、今後は待遇が不合理か否かの判断は雇用形態に応じた賃金以外の労働条件の趣旨と当該労働者に支払われる個々の賃金項目の趣旨から判断してその待遇に客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が求められると考えます。

また、労働条件と賃金項目それぞれの具体的な定義づけによる待遇体系の構築も必要になり、さらには短時間・有期雇用労働者と比較対象になる通常の労働者との待遇の違いを客観的に説明できることも必要です。

短時間・有期雇用労働法8条では、短時間・有期雇用労働者の待遇それぞれと短時間・有期雇用労働者と比較対象になる通常の労働者の待遇との間で職務の内容等の3要素により待遇の性質、目的に照らして不合理と認められる相違を禁止していますが、今回の判例により賃金項目と同様に個々の労働条件の趣旨も考慮要素になります。

なお、待遇の違い(格差)は、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間だけではなく、短時間・有期雇用労働者と総称される個々の労働者間にも存在すると考えられるため、通常の労働者個々に対する評価結果による待遇と同様に、短時間・有期雇用労働者にも適切な評価を実施して待遇を決定することが求められます。

以上

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